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信長の勧めに恒興は軽く頭を下げると、彼も広間を辞した。
◆◆◆
「私はまだ――、殿の命を隙あらば狙うものなのでございましょうか?」
恒興が出ていくと、帰蝶がそう言って柳眉を寄せた。
「誰かに、言われたか?」
「いいえ、そうではありませぬが……」
恒興が何を言おうとしたのか、信長にはわかっていた。
帰蝶が信長を殺そうとするのではないか、干し柿には毒があるのではないかと。
主君を護るのは家臣の務め。主君が間違っていれば諫めるのも家臣の務め。そのことは、うつけと言われている信長にも充分わかっている。
和睦を結んだからと、斎藤道三が気を許したかどうかはわからない。ゆえに恒興は警戒したのだろう。さすが帰蝶も、恒興の態度を察したらしい。
「お前はどうなんだ? 帰蝶。今でも俺の首が欲しいか?」
「こちらに嫁ぐ以前、そう思っておりました。私は斎藤道三の娘、斎藤家のためならばと犠牲になるのも厭わぬと生きてまいりました。ただ、私は女。戦場で功績を挙げることは叶いませぬ」
正直に肚を明かす帰蝶に、信長の帰蝶への警戒はない。
「道三のことが、好きなんだな」
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