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「――柴田どの、信行さまはなんと?」
問いかけられて、柴田勝家は眉を寄せた。
「……ご自身の口からは言えまい。家督を継ぐ、などとは。まだ信長さまを慕われておられる」
それはこの、二刻前のことだ。
勝家は、信秀の正室・土田御前に呼ばれた。
おそらく、今後のことだろう。
部屋を訪ねると、信行が座っていた。
「――また、そのお話ですか?」
信行は母・土田御前を前に嘆息した。
「信行、そなたはこの末森城の主。いえ、織田弾正忠家の主なのです」
「母上、那古野城の兄上こそ正当な跡継ぎです」
「信長では、家臣たちはまとめられません。アレがこれまでなにをしてきたか、そなたもわかっておりましょう。信行」
相変わらず、信長には厳しい土田御前である。
信長とて彼女にとっては実の子、ただ産んですぐに乳母に託され、母子として過ごしたのはほんの僅か、愛情が自分で育てた信行よりも薄いのは仕方ないだろう。
さらに信長の素行の悪さが、彼女が信長に厳しい要因である。
「私は、兄上を差し置いて織田弾正忠家を継ぐつもりはございません!」
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