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温厚な信行が、苛立ちを露わに座敷を出ていく。
「――困った子だこと……」
柳眉を下げ嘆息する土田御前に、勝家は視線を戻した。
「お方さま」
「さぞ酷い母親だとお思いでしょう? 勝家どの。信長も信行も私が産んだ子、ですが母である前に妾は弾正忠家の人間。家のために、最善を尽くすのも妾の務めと思っております。ただ、信行は戦には不慣れ。頼れるのは勝家どのしかおりませぬ」
「この柴田権六郎勝家、ご期待に応えるべく某も最善を尽くしまする」
勝家は、このときある予感がしていた。
近い将来この家督相続問題が火種となって、尾張に戦の風が吹くのではないか――と。
◆
織田弾正忠家が尾張下四郡守護代・織田大和守家を凌ぐまでになったのは、織田信秀が築き上げてきた力と財力だろう。
天文七年、今川氏豊の居城であった那古野城を奪い取り、愛知郡(現在の名古屋市域周辺)に勢力を拡大したという。
天文八年には古渡城を築き、経済的基盤となる熱田を支配したらしい。
さらに天文十七年には末森城を築いた。
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