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一致団結しなければこの尾張に先はない――、恒興はそう思う。なのになにゆえ、身内同士で啀み合わねばならぬ。
「信長さま」
「ここは以前、父上と鷹狩りに来た場所でな」
あたり一面の草原、膝丈ほどの草叢は野兎たちのかっこうの隠れ場所だろう。
「俺には獣が何処に潜んでいるかわからなかったが――、兎の方から頭を出した。だが父上はまだだという」
――戦も同じだ。相手を油断させ、充分引き付けてそこを狙う。
信秀はそういったという。
その後、信秀の放った鷹は見事兎を捕らえたらしい。
「まったく、何を考えているかわからん父だ。最期ぐらい、なにか言えばいいものを」
僅か八歳にして那古野城の主にされたという信長は、父である信秀の背を追えなかったという。目標とすべき存在が、なにも語ってはくれない。普通なら、心が折れて当然である。
はたして信秀は「うつけ」と呼ばれて傾奇者となった息子を、どう想っていたのだろうか。今となっては、その答えを聞くことはもうできない。
「大殿は、信長さまのことを理解しておられてましたでしょう」
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