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確信はないが、そうだったと恒興は信じたかった。
「行くぞ! 勝三郎」
「帰城されますか?」
「いや……、萬松寺に行く」
そう決断する否や、信長は手綱を引いた。
◆◆◆
天文二十一年、三月三日――、本来ならば桃の節句である。
弾正忠家の菩提寺である萬末寺には織田家家臣が顔を揃え、喪主の登場を待っていた。
この日は、織田信秀の葬儀だからだ。
実は喪主を巡って、織田家家臣が揉めるという騒動があった。
嫡男である信長が喪主であるべきという信長を弾正忠家当主に推す派と、温厚で真面目と言われる信行を弾正忠家当主に推す派がここでも対立した。
結局、信行が「兄上こそ弾正忠家の当主になられる方」と言い切ったため、一旦は落ち着いたのだが、当の信長がまだ来ていない。
「――信長さまは、まだ来られぬのか」
「まったく、平手どのがお側にいながらどのような養育をされたのやら」
末森城織田家家臣の嫌味に、老臣・平手政秀が一喝した。
「若殿を愚弄するとは無礼ぞ!」
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