第十二話 さらば! 尾張の虎、織田信秀死す!

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 再び啀み合い始める両者に、家臣の一人が信行に囁いてくる。 「信行さま、これ以上は待てませぬ」 「兄上はきっと来る……!」  信行は、信長を信じていた。  確かに昔から暴れていた兄だが、信行は嫌いではなかった。(むし)(うらや)ましいくらいだ。  誰にも束縛(そくばく)されず、好きに野を駆ける兄が。  ――父上。あなたはどう思われておられたのですか?  同じ城にいながら、父・信秀は多くは語らない人であった。  荒れる信長を、周りに逆らうことなく真面目と言われる信行をどう見て、どう想っていたか。いや、答えは最初から出ていたのだろう。  この尾張を(たく)すに相応(ふさわ)しいのはどちらか――。  家臣の半分が「うつけよ」と信長を軽んじ、母・土田御前でさえ背を向ける信長を、信秀は最初から跡取りとの素質を見定めていたとしたら、彼が信長に対して何も言わなかった説明がつく。  そう考えると、信長に対して嫉妬(しつと)も覚える信行であった。   「の、信長さま……っ!?」  家臣の声に、信行は弾かれるように顔を上げ振り返った。
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