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再び啀み合い始める両者に、家臣の一人が信行に囁いてくる。
「信行さま、これ以上は待てませぬ」
「兄上はきっと来る……!」
信行は、信長を信じていた。
確かに昔から暴れていた兄だが、信行は嫌いではなかった。寧ろ羨ましいくらいだ。
誰にも束縛されず、好きに野を駆ける兄が。
――父上。あなたはどう思われておられたのですか?
同じ城にいながら、父・信秀は多くは語らない人であった。
荒れる信長を、周りに逆らうことなく真面目と言われる信行をどう見て、どう想っていたか。いや、答えは最初から出ていたのだろう。
この尾張を託すに相応しいのはどちらか――。
家臣の半分が「うつけよ」と信長を軽んじ、母・土田御前でさえ背を向ける信長を、信秀は最初から跡取りとの素質を見定めていたとしたら、彼が信長に対して何も言わなかった説明がつく。
そう考えると、信長に対して嫉妬も覚える信行であった。
「の、信長さま……っ!?」
家臣の声に、信行は弾かれるように顔を上げ振り返った。
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