第十二話 さらば! 尾張の虎、織田信秀死す!

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 そこには正装することなく、いつもの(かぶ)いた姿の兄がいた。 「兄……上……?」  信長は前までやってくると、抹香(まつこう)を手にした。  そして――。 「なっ……」  それはあまりにも突然で、ありえない行動だった。  なんと信長は、抹香を信秀の位牌に投げつけたのである。 「尾張のことは気にするな。だから安心して成仏しろ。クソ親父」  不遜(ふそん)な態度に家臣たちが眉を寄せる中、信長だけが笑っていた。  ――兄上、どうして……。  信じていたかった。  弾正忠家の跡取りとして、父・信秀の葬儀を立派に務めてくれると。  しかし信長は昔と少しも変わっていなかった。  父・信秀とて、人を見抜けぬことがあるだろう。ゆえにその判断が正しいとは限らない。 しかしこのときはまだ、信行に織田弾正忠家を継ぐ意志はなかった。
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