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そこには正装することなく、いつもの傾いた姿の兄がいた。
「兄……上……?」
信長は前までやってくると、抹香を手にした。
そして――。
「なっ……」
それはあまりにも突然で、ありえない行動だった。
なんと信長は、抹香を信秀の位牌に投げつけたのである。
「尾張のことは気にするな。だから安心して成仏しろ。クソ親父」
不遜な態度に家臣たちが眉を寄せる中、信長だけが笑っていた。
――兄上、どうして……。
信じていたかった。
弾正忠家の跡取りとして、父・信秀の葬儀を立派に務めてくれると。
しかし信長は昔と少しも変わっていなかった。
父・信秀とて、人を見抜けぬことがあるだろう。ゆえにその判断が正しいとは限らない。 しかしこのときはまだ、信行に織田弾正忠家を継ぐ意志はなかった。
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