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その織田信秀が大規模な稲葉山城攻めを仕掛けてきたのは今年のことたが、道三は籠城戦で織田軍を壊滅寸前にまで追い込んでいる。
まさに下剋上の世を、身をもって駆け上がった男である。
織田方から書状が届いたと聞いた道三は、いちゃもんでもつけてきたかと思ったがそうではなかった。書状を開けば、和睦したいという。
果たして本心かどうか――。
ついこの間まで、戦っていた相手である。
和睦と見せかけて襲うのは、この世では珍しいことではない。
「父上……」
衣擦れをさせて、一人の女人が道三の前に座った。
「帰蝶か」
帰蝶――、道三の娘である。
「尾張から書状が届いたと伺いました。また――、戦になるのでございますか?」
「最悪はそうなるであろうの。だがこの道三、噛み付いた相手は必ず仕留める。これまでそうしてきたのだ」
織田信秀が尾張の虎なら、道三は美濃の蝮と言われている。
主君の謀殺や乗っ取りなどの手法を用い、戦国大名にまで登り詰めたのが理由である。
「ですが草の者(※忍者)によれば、現在の尾張は纏まっていないとか」
尾張が一つでないことは、道三も知っていた。
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