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下剋上の世となりつつあるが、信行に守護や守護代を差し置いて尾張の主になろうという意思はない。
「信長どのは、どう思っていよう?」
兄・信長の名を出され、信行は胡乱に眉を寄せた。
「兄上が……」
「せっかくこの尾張に平穏が戻ったと言うに、今川を刺激したと聞く。噂では、この尾張を手にいようとしているとか。それはつまり、守護・斯波さまや守護代の我に弓を引く行為ではないのか?」
「兄上がまさか……」
「このままでは、尾張にいらぬ戦が起きてしまう。信行どの、ここははっきりとさせられよ。弾正忠家当主は自分だと」
「それは……」
「ためらうことない。守護代の吾が貴殿を支持する。貴殿は胸を張って弾正忠を名乗られよ」
信長では自分が弾正忠家を継ぐ――、これまでそんなことは思っていなかったが、父の葬儀での振る舞いは、信行の心を揺さぶった。
信長に家臣たちを纏めることはもう無理であること、守護代までも信長に疑惑をだいていること、このままでは信友の言う通りこの尾張で戦になるかも知れない。
「殿……!」
廊を進んだところに、柴田勝家が寄ってくる。
「勝家……」
「大和守さまのお話は……」
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