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「私が弾正忠家の跡取りだと言われた。ただ――」
まだ兄・信長を信じたいという思いが、信行を躊躇わせる。
「殿……?」
「那古野城の兄上は――、この尾張を手に入れたいのだろうか?」
「まさか……、あの信長さまが……」
勝家も、信じられないようだ。
「もしそうなら、兄上の暴挙は止めなくてはならない」
それは信行が、弾正忠家の跡取りとなる決意をした瞬間であった。
◆
「殿、あれで本当に良かったので?」
信行の気配が完全に消えるのを見計らい、坂井大膳は口を開く。
「信長が尾張を手に入れるために画策しているというアレか? でっち上げに決まっていよう。だが、信行は信じよう。さすがにあの男ももはや信長に対して心が揺れている様子、人の意見に流されやすい性格なのは誠のようだの。あれでは弾正忠家当主として心許ない。ま、力を削ぐにはよいが」
くくっと嗤う信友を、大膳は「馬鹿な男だ」と思っていた。
尾張守護・斯波氏は今や名ばかり、傀儡とし尾張の主となったと思っているのだろうが、その信友を操作しているは大膳である。
「手を携えるというのも方便にございますか」
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