14人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
この日――、信長を訪ねて那古野城にやってきた僧侶がいる。
かつて信長の許育係であった、沢彦宗恩である。
「お元気そうでなによりでございます」
城館の中庭で火縄銃の射撃をしていた信長は、構えていた銃身を下げた。
「俺が凹んでいると思ったか?」
「いいえ。信長さまは、逆境こそ楽しまれる方。ですがあまりやりすぎますと、御味方も減りましょう」
そう言って苦笑する宗恩に、信長は目を細めた。
さすが父・信秀が信を於いたという僧侶である。信長の、隠された真の姿を見抜いているようだ。
「信行の事を言っているのか……」
「弟君はお優しい方。ですが、周りの影響を受けやすいのも確か」
意味深な物言いに、信長は宗恩を睥睨した。
「何が言いたい?」
「清須の信友さまが、信行さまとよく会われている様子。弾正忠を名乗られたのは、おそらく信友さまの後押し。ですがそれは仮、朝廷からの正式な官位ではございませぬ。問題は、守護代さまが後ろ盾となり、兄君のあなたさまが変わらぬため、御自分が家督を継ぐべきだと決断されたことでしょう」
最初のコメントを投稿しよう!