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「…………」
「もうわかっておられる筈、信行さまといつか対立することになると。尾張をかつてのように一つにするには当然、信行さまと大和守家と対立しましょう」
「俺は信行と戦うつもりはない」
信長は、的に向かって火縄銃を撃つ。
「拙僧も実の兄弟が戦うなど、望んではおりませぬ。ですが、人は変わるもの」
尾張を一つにする――、信長の夢の前に立ち塞がるのは、やはり大和守・伊勢守両守護代だろう。ただ信行とだけは、争いたくない信長であった。
◆◆◆
今川勢と清州城の織田大和守家の動向が気になる中、八月になった。
蝉時雨に包まれる那古野城広間では主だった家臣が集まり、評議が開かれていた。
「成政、今川に動きは?」
「義元公は未だ駿河より出ておらぬ様子」
信長の問いに、佐々成政が《さつさなりまさ》即答した。
「ふん。戦は先鋒に任せて、自分はあとからゆっくりとやってくる算段か。尾張も舐められたものだな」
上段の間にて立て膝で座っていた信長は、鼻で笑った。
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