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この頃になると信長はいつもの傾いた姿ではなく、小袖は蘇芳の色味で下は袴という出で立ちで、髪だけは緋色の紐で括っていた。
「今川の総大将は太原雪斎という男。かの者の首を落とせば、義元公も動きましょう」
「その時は是非、私に首を取らせてくださいませ! 信長さま」
意気揚々と発言したのは前田犬千代である。
「大した自信だな? 犬千代。初陣が嬉しいのはわかるが、相手は今川軍の総大将だぞ?」
「槍の勝負なら負けませんって。今日まで特訓してきたんですからね」
だが、今川勢もこちらの動きを探っているのか動きはなく、評議の話題も尽きようとしていた。
「申し上げます!」
広間の敷居にて、小者が片膝をついた。
「何事だ? 評議中だぞ」
「松葉城、深田城が清須方の襲撃を受けましてございます」
「なにゆえ守護代さまが……」
家臣団に動揺が広がる中、恒興が信長を振り返った。
「殿! 深田城には、信次さまが――」
深田城主・織田信次――、信秀の五番目の弟で、信長にとっては叔父である。
「出陣の用意だ!!」
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