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信行はその守護代に推されて家督と弾正忠を継いだが、はっきりと継いだわけではない。 織田家家臣は未だ二つに分かれ、弾正忠の位も朝廷から直接賜ったものではない。
しかも心の中には、信長を慕うもう一人の己がいる。
「殿――」
廊で柴田勝家が膝を折る。
「守護代さまは、那古野城の兄上を倒すつもりらしい。深田城の叔父上を人質に、兄上を誘い出すようだ」
「殿のご決断は?」
勝家は、守護代に味方して兄と戦うかと聞きたいのだろう。
「いや。だがわたしにとっても深田城主は叔父。勝家、兄上の陣に加われ」
「まだご決断ができておりませぬか? 殿。亡き大殿の後を継がれることが」
「家臣のすべてが、わたしについているわけではない。どうして彼らが兄上に背を向けないと思う?」
「いえ、某には……」
「守護代さまがなにゆえ兄上を恐れるのか、わかる気がしてきた」
いや、本当は薄々わかっていたのだ。
父・信秀が存命の頃から。
なぜ那古野城の家臣たちが兄に従うのか、うつけと呼ばれ、母でさえ背を向けた兄である。父・信秀の葬儀のときでさえ、信長の行為はありえないものだ。
それなのに――。
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