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陣幕の中では甲冑に真紅の外套を背に纏った信長が床几に座り、地図を睨んでいた。
「信長よ、お前相当憎まれているな。なにをした?」
陣幕に入ってくるなりそう言ってくる叔父・信光に渋面になるも、信長は視線を戻す。
「別に何も」
「で、策はあるのか?」
「まずは軍を四つに分ける」
信長は軍扇で、トンっと地図を突いた。
「海津口と他に松葉口・三本木口・清洲口だな?」
海津は濃尾平野の三大河川(※木曽三川)である揖斐川・長良川・木曽川が合流する地点にあり、松葉・三本木・清須も敵方にとっては尾張への侵入経路である。
「叔父上は俺たちと、萱津へ」
信長の指示に、信光が頷く。
「わかった」
恒興が陣幕を出て、声を張った。
「法螺貝を吹け! 殿が出陣なさる!!」
◆
辰の刻(午前8時ごろ)、戦端が切られた。
足軽による先手の槍部隊が敵陣を開き、騎馬隊が駆け抜けた。
尾張・萱津――、控えの後詰め(※予備軍)を背に、信長は前を見据えていた。
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