第十五話 尾張に吹く旋風! 険しき夢の道

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 陣幕(じんまく)の中では甲冑(かつちゆう)に真紅の外套(がいとう)を背に纏った信長が床几(しようぎ)に座り、地図を睨んでいた。 「信長よ、お前相当憎まれているな。なにをした?」  陣幕に入ってくるなりそう言ってくる叔父・信光に渋面になるも、信長は視線を戻す。 「別に何も」 「で、策はあるのか?」 「まずは軍を四つに分ける」  信長は軍扇(ぐんせん)で、トンっと地図を突いた。 「海津口と他に松葉口・三本木口・清洲口だな?」  海津は濃尾平野の三大河川(※木曽三川)である揖斐川(いびがわ)・長良川・木曽川が合流する地点にあり、松葉・三本木・清須も敵方にとっては尾張への侵入経路である。 「叔父上は俺たちと、萱津(かやづ)へ」  信長の指示に、信光が(うなづ)く。 「わかった」  恒興が陣幕を出て、声を張った。 「法螺貝(ほらがい)を吹け! 殿が出陣なさる!!」               ◆  辰の刻(午前8時ごろ)、戦端が切られた。  足軽による先手の槍部隊が敵陣を開き、騎馬隊が駆け抜けた。 尾張・萱津――、控えの後詰(あとづ)め(※予備軍)を背に、信長は前を見据えていた。
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