第十六話 無念! 伝わなかった想い

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第十六話 無念! 伝わなかった想い

 雪が降っていた。みぞれ交じりの雪で、それが(ろう)に吹き込み、(またた)く間に溶けて床を濡らした。 清州城・織田大和守家――、尾張下四郡守護代・織田信友は一人、唇を噛んでいた。    ――おのれ斯波義統め、大人しく傀儡(かいらい)になっておればいいものを……!    尾張守護・斯波義統――、信友にとっては主君であったが、いまや義統に守護としての力はなく、信友の傀儡である。    早々に義統を見限(みかぎ)った信友は、尾張一国を手土産に、今川へ乗り換えようとしていた。  うまくいけば、そのまま尾張を任せられるかも知れない。だが、それを阻んで来るとされるのが尾張三奉行の一つ、織田弾正忠家である。    信秀亡きあとその勢力は落ちると思っていたが、やはり虎の子は虎である。  信秀の子・信長はうつけなどではなかった。  真にうつけならば戦で大敗を(きつ)し、家臣たち全てに背を向けられていよう。だがこれまでの戦に於いて信長は勝っている。  萱津戦では此方側の大敗である。  こうなることを、信友は恐れていた。ゆえに、信長を殺そうと企てた。彼さえ消えれば、弾正忠家なぞ恐るに足らぬ。
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