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「わしにはもう、若殿が理解できぬ……」
「それは……」
苦渋の色を浮かべる政秀に、恒興は真の信長はこうであると言いかけ、やめた。
それをいえば政秀の誤解は解けるだろうが、信長本人が胸の内を明かさぬ限り、それを家臣である自分が口にするのは烏滸がましいと思ったからだ。
「だが若殿こそ、織田弾正忠家の跡取り。恒興、しっかりお支え致せ」
そう言って去っていく政秀の後ろ姿が、恒興には忘れられない。
「よぉ、そこの若い衆、餅はいらんかね?」
物売りの青年が、そう恒興たちを呼び止めた。
「繁盛しているようだな?」
「へい。ありがたいことで」
「なにか変わったことはないか?」
「今のところは何も。余所者が何人か国境を越えてきたのは見ましたけどね」
信長が城下を歩くのは、こうした情報を自ら得るためと、戦力の補充である。
現に足軽の何人かは、農民などの下級層である。
「その余所者、まさか武士だったんじゃないだろうな?」
「いや、ただの商人さ。これでも人は見る目があるんだぜ?」
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