第十六話 無念! 伝わなかった想い

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「わしにはもう、若殿が理解できぬ……」 「それは……」  苦渋(くじゆう)の色を浮かべる政秀に、恒興は真の信長はこうであると言いかけ、やめた。  それをいえば政秀の誤解は解けるだろうが、信長本人が胸の内を明かさぬ限り、それを家臣である自分が口にするのは烏滸(おこ)がましいと思ったからだ。 「だが若殿こそ、織田弾正忠家の跡取り。恒興、しっかりお支え致せ」  そう言って去っていく政秀の後ろ姿が、恒興には忘れられない。     「よぉ、そこの若い衆、餅はいらんかね?」  物売りの青年が、そう恒興たちを呼び止めた。 「繁盛(はんじよう)しているようだな?」 「へい。ありがたいことで」 「なにか変わったことはないか?」 「今のところは何も。余所者が何人か国境(くにざかい)を越えてきたのは見ましたけどね」  信長が城下を歩くのは、こうした情報を自ら得るためと、戦力の補充である。  現に足軽の何人かは、農民などの下級層である。  「その余所者、まさか武士だったんじゃないだろうな?」 「いや、ただの商人さ。これでも人は見る目があるんだぜ?」
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