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那古野城に帰城すると、佐久間信盛が心痛な顔で膝を折った。
「どうした? 信盛」
「――平手さまが……」
「爺がどうかしたか?」
「お亡くなりになりましてございます」
「え……」
「お屋敷で……自害されたと……」
◆◆◆
平手政秀が死んだ――。
昔から小うるさく言っている男であった。一方で、政秀だけが信長を諌め、時には褒めてくれた。
父・信秀と別れて暮らす信長にとって、政秀は父にも等しい存在であった。
――お前が死ぬことはなかったんだ、爺。
武将として生まれ育ったからには、戦にていつ死ぬかわからない。主君のため、国のため戦い、それで死ぬのは本望と本人が思うなら諦めもつくが、政秀は自ら死を選んだ。
彼になんの非がある?
――理解ってくれると、俺は思っていたんだ。
うつけなのは、味方を得るため。父・信秀がなし得なかった強い尾張を築くため、信長は周囲を欺いて生きてきた。
もう政秀の説教は聞けない。もう――、褒めてくれる人間はいなくなった。
南蛮渡来の品に囲まれた室内で、信長は唇を噛み締めた。
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