第十六話 無念! 伝わなかった想い

5/7
前へ
/141ページ
次へ
 那古野城に帰城すると、佐久間信盛が心痛な顔で膝を折った。 「どうした? 信盛」 「――平手さまが……」 「爺がどうかしたか?」 「お亡くなりになりましてございます」 「え……」 「お屋敷で……自害されたと……」                    ◆◆◆  平手政秀が死んだ――。    昔から小うるさく言っている男であった。一方で、政秀だけが信長を諌め、時には褒めてくれた。  父・信秀と別れて暮らす信長にとって、政秀は父にも等しい存在であった。  ――お前が死ぬことはなかったんだ、爺。    武将として生まれ育ったからには、戦にていつ死ぬかわからない。主君のため、国のため戦い、それで死ぬのは本望と本人が思うなら諦めもつくが、政秀は自ら死を選んだ。  彼になんの非がある?    ――理解ってくれると、俺は思っていたんだ。    うつけなのは、味方を得るため。父・信秀がなし得なかった強い尾張を築くため、信長は周囲を欺いて生きてきた。  もう政秀の説教は聞けない。もう――、褒めてくれる人間はいなくなった。  南蛮渡来の品に囲まれた室内で、信長は唇を噛み締めた。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加