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さすがは信長の父、那古野城を譲ったとはいえ、噂は届いているようだ。
「笑うている場合ではありませぬぞ。家中が揺れ動いておりまする」
勝家の諫言に、信秀は表情を引き締めた。
「アレのことは、政秀に任せている」
「ですが万が一のことがあれば、平手どのの腹一つではすみませぬ」
「わしにどうせよと?」
睥睨する信秀に、勝家は視線を逸した。まさか己の口から、弾正忠家・家督相続をどうのとは言えない。
「それは……」
「ところで勝家、信友さままが信長のことを気にされておられてな。わしに意見してきた」
「意見……にございますか?」
信秀は苦笑したが、その目は笑っていなかった。こちらの肚を探っているのか、鋭い眼光は猛将と言われる勝家でさえ恐れさせた。
信友こと織田信友は、尾張守護代・織田大和家当主である。弾正忠家の本家ではあるが、格は主君である大和家が上、従うのが道理である。
なれど弾正忠家の今後について口を挟んできたことが、信秀の疑念を誘ったようだ。
結局信秀の真意を掴めぬままに、勝家は広間を辞した。
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