第十六話 無念! 伝わなかった想い

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 昔から辛いことがあれば籠もったここは、元納戸というだけあって黴臭(かびしゆう)が取れず、慰めとなった品々はこのときはなんの慰めにはならなかった。  ――父上も馬鹿野郎だが、お前も馬鹿野郎だ。  手本も示さず怒りもせずに信長に無言を貫いた父・信秀、信長の素行を諌め続け、それでも背だけは向けなかった政秀。  二人が望んだ尾張の姿を、もう見せてやることはできない。  花頭窓(※上枠を火炎形に造った特殊な窓)の外は、銀世界である。  雪が解ければ、おそらくまた戦が始まるだろう。   そんな時、背後で物音がした。  振り返ると、恒興がここまで登って来ていた。  信長の趣味の部屋は、屋根裏といってもいい場所にあり、狭く急な梯子段を登って来なければならない。  しかも片手に手燭を持ってとなると、足を踏み外せば下に真っ逆さまである。  信長は難なく登ってきた人物に、眉を寄せた。   「……なにか用か?」 「いえ、実にわかりやすい方だなと思いまして」 「は?」  登ってきたのは恒興だった。彼もこの場所を知っているが、子供時を境に登ってくることはなくなっていた。
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