第二話 それぞれの思惑

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 そんな勝家を、呼び止めた女人がいる。  藤色の打ち掛けを梔子色(くちなしいろ)の小袖に羽織り、背の中ほどで括った黒髪をその上に流している。信秀の側室にして、信長の生母・土田御前(つちだごぜん)である。 「――お(かた)さま」 「その顔では、殿の真意、聞けなかったようですね? 勝家どの」 「大和家の介入が災いしたようにございます」 「あちらとしても、信長が弾正忠家を継ぐと困るのでしょう。いずれ衝突するのは必定(ひつじよう)。ですが、それは我々にとっても困ること。おわかりですね?」 「ごたごだが生じている間に、駿河の今川、甲斐の武田、三河の松平がこの尾張に攻め入って来る」 「そうです。殿とて、十分に承知していることでしょう。この混乱を静かに鎮めるには、誰が相応(ふさわ)しいかを」 「ご子息――、信行さま」  土田御前は「是」とも「否」とも言わない。だが、その口ぶりから信行に後を継がせたいと思っているだろう。
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