14人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
そんな勝家を、呼び止めた女人がいる。
藤色の打ち掛けを梔子色の小袖に羽織り、背の中ほどで括った黒髪をその上に流している。信秀の側室にして、信長の生母・土田御前である。
「――お方さま」
「その顔では、殿の真意、聞けなかったようですね? 勝家どの」
「大和家の介入が災いしたようにございます」
「あちらとしても、信長が弾正忠家を継ぐと困るのでしょう。いずれ衝突するのは必定。ですが、それは我々にとっても困ること。おわかりですね?」
「ごたごだが生じている間に、駿河の今川、甲斐の武田、三河の松平がこの尾張に攻め入って来る」
「そうです。殿とて、十分に承知していることでしょう。この混乱を静かに鎮めるには、誰が相応しいかを」
「ご子息――、信行さま」
土田御前は「是」とも「否」とも言わない。だが、その口ぶりから信行に後を継がせたいと思っているだろう。
最初のコメントを投稿しよう!