第二話 それぞれの思惑

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 彼はこの日も那古野城を抜け出し、片肌脱ぎにした小袖に腰に瓢箪(ひようたん)、緋色の組み紐で髪を高く括っているという目立つ成りである。  馬は尾張を離れ、摂津国(せつつのくに)に入った。  やがて視界に広がる青い光景に、恒興が絶句した。  眼の前には大海原、信長も初めて海を見たときは絶句したのだから無理はないだろう。  しかも二人がいるのは港である。 「ここは、まさか……」 「そう、堺だ」  堺――、室町時代には足利将軍家や管領・細川氏などが行った日明貿易(勘合貿易)の拠点となっという。現在も明やルソンなどの貿易で栄えているらしい。  応仁・文明の乱以後、それまでの兵庫湊(※大阪湾北西部、現在の兵庫県神戸市)に代わり、堺は日明貿易の中継地として更なる賑わいを始め、琉球貿易・南蛮貿易の拠点として国内外より多くの商人が集まる難波津や住吉津などと同様、国際貿易都市としての性格を帯びているという。  当然、南蛮船が幾つも停泊している。
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