第二話 それぞれの思惑

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 政秀の主君は信秀であり、況してや信長の実父である。宗恩の人となりを説明し、その上で信秀の決断が必要になる。 「お前を召すというと……」 「信秀公にございます」  やはり、宗恩を末森城に呼んだのは信秀であった。 「俺のことか?」 「それもございますが、美濃とのことで拙僧の意見を聞きたいとの仰せ」  沢彦宗恩は、美濃国にて興宗宗松が開山した美濃の大宝寺の住持(住職)を務めていたという。  美濃にいた宗恩だからこそ、信秀も話を持ちかけたのだろう。 「あの父上を噛みつく蝮のことだ。この尾張に攻め入ってくるとでも?」  蝮とは、美濃の国主・斎藤道三のことだ。 「信秀公は、和睦をお考えにございます」  和睦と聞いて、信長は父・信秀を嘲笑った。 「蝮の毒に当たったか?」 「信長さま、信秀公は一度の負け戦で戦意を失うお方ではないと思いまする。国を護るためには、昨日の敵も味方にするのも手かと」 「蝮がそう簡単に味方になるとは俺は思えんが」 「いずれ――、この那古野城に末森城から書状が参ることでございましょう」  宗恩は終始温和な表情を崩すことなく、頭を垂れた。  ――クソ坊主め。
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