14人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
天文十三年――、織田信秀は美濃・稲葉山城へ侵攻。大敗したと、那古野城に報せがきた。この時、信長がどんな心境だったのか恒興にはわからない。
ただ、出陣していく信秀の背を見えなくなるまで見ていた信長を思い出す。
二人が並んでいたという記憶は、信長の側にいる恒興でさえない。
信長は「クソ親父」と毒づいているが、本当に嫌っていればその背を見つめ続けていることはないだろう。
信長が、火縄銃に興味を待ち始めたのはこの頃からである。
――これからの戦は、火縄銃が制す。
朝早くから種子島を撃ち放す信長が、誰にいうわけではなくそう言った。
信秀はそれからの戦でも火縄銃は使用しなかったが、そのときの信長の顔はいつにもまして真剣だったのを、恒興は覚えている。
だが火縄銃は、火薬と弾丸を装填して発砲するまでに数泊かかり、しかも一発ずつしか撃てないのが難点だった。これでは発砲の準備をしている間に、敵が迫ってきてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!