第四話 松平竹千代、拐われる

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 織田弾正忠家の本家であり守護代、織田大和家当主・信友が信秀の当時の居城である古渡城に攻めてきたという。  尾張の虎といわれた信秀も、さすがお手上げだったのか、道三の和睦に踏み切ったようだ。しかし、信長が不快に思ったのはそのことではなかったようだ。 「美濃と戦をしようが和睦しようが父上の勝手だ。それはいい」 「いったい、末森城の大殿(おおとの)はなんと言ってこられたのでございますか?」 「俺に(まむし)の娘を娶れ――だそうだ」  信長はそういって、眉間に(しわ)を刻む。 「それはなんと申し上げていいのか……」  婚礼も(まつりごと)の一部とされるのが戦国の世、当事者の意見などお構いなしに縁組みが決まる。臣下として主の慶事を喜ぶべきなのだろうが、当の信長が全く喜んでいない。  当然だ。相手は蝮と言われる斎藤道三の娘である。  しかも信長は、まだ十五歳である。 「あの父上を手こずらせた蝮の道三だ。素直に和睦に応じたと思うか?」 「なにか魂胆(こんたん)があると?」 「さぁな」  信長はそう言って腰を上げた。 「どちらへ?」 「万松寺だ。父上が人質とした、三河(みかわ)の息子を見に行く」
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