第四話 松平竹千代、拐われる

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「大殿のお許しもなくそのような……っ」  そう止めたものの、信長はもう広間から出ていた。  万松寺は那古野城の南側にある、織田家の菩提寺(ぼだいじ)である。  問題は万松寺に行くことではなく、その寺にいる竹千代(たけちよ)という少年である。  正式名を、松平竹千代(※のちの徳川家康)――、織田信秀がさる事情により人質とした三河国・岡崎城主、松平広忠(まつだいらひろただ)の嫡男である。 ◆  松平竹千代が生まれたのは、天文十一年だという。  母は三河国・刈谷城主、水野忠政の娘で於大(おだい)である。  当時の三河は尾張の脅威に晒され、松平広忠は駿河の今川義元を後ろ盾になんとか抵抗していたらしい。  だが竹千代が産まれた翌年、祖父の水野忠政が死亡し、竹千代にとって叔父である水野信元は織田家と協力関係を結び、松平家の敵方になってしまったという。今川の手前、松平広忠は於大と離別。竹千代は母親と引き離されたのである。
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