第四話 松平竹千代、拐われる

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 天文十六年、今川氏からの支援を受ける見返りとして、竹千代は今川家へ人質に出されることになった。しかしその途中、同行していた戸田康光らが突如として今川を裏切って織田方へ寝返ったため、竹千代は尾張の織田家の人質となった。  戦国の世の習いとはいえ、生き延びるためには駒とされる弱小国の子である。  三河国が存続するために今川につくか織田につくか、広忠は迷ったことだろう。もし両者に対抗できる力があれば、竹千代は母と別れることもなく、人質として三河から出されることはなかったかも知れない。  万松寺の本堂にて、竹千代は万松寺の本尊・十一面観世音菩薩を拝んでいた。  なんでも十一面観世音菩薩は十種類の現世での利益と四種類の来世での果報をもたらすと言われ、その深い慈悲により衆生から、一切の苦しみを抜き去る功徳を施す菩薩であるとされるという。  不意に馬の(いなな)きが聞こえ、目を閉じていた竹千代は振り返った。  寺であるにも関わらずドタドタと響く足音が竹千代のいる本堂に近づき、そして止まった。 「――お前が三河・松平家の竹千代か?」  障子が乱暴に開かれ、変わった身なりの男が声を張った。
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