第四話 松平竹千代、拐われる

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 緋色の組み紐で髪を括り、緋と鬱金色(うこんいろ)の小袖は膝丈までしかなく、それを片肌脱ぎにして、腰に瓢箪をぶら下げている。 「何者だ!? 賊か!」  歳は竹千代より上、まだ十代だろう。 「この方は――……」  男の隣にいたもう一人は小袖に肩衣と至って普通の身なりだが、何かを言いかけて男が制した。 「お前、泳げるか?」 「え……」  意表をつく言葉に、竹千代の警戒が緩む。 「どうなんだ?」 「わ、わからぬ。水に入ったことなどないゆえ……」 「なら来い。寺に籠もっていては躯が鈍る」 「でも私は――」  そう言いかけて、竹千代の躯が浮いた。  なんと竹千代は、男の肩に軽々と担がれていたのである。 「こら降ろせ! 無礼者!!」  竹千代の抗議に、男の目が据わる。 「口だけは元気なガキだな?」 「お前だって子供ではないか! 私は賊になるつもりはないっ」  足をバタつかせたが、男は離さない。  そんな騒ぎが聞こえたのか、万松寺住職が駆けつけてきた。 「何事じゃ!? ……っ、の、信長さま!?」  住職の言葉に、竹千代は瞠目(どうもく)する。
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