14人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
緋色の組み紐で髪を括り、緋と鬱金色の小袖は膝丈までしかなく、それを片肌脱ぎにして、腰に瓢箪をぶら下げている。
「何者だ!? 賊か!」
歳は竹千代より上、まだ十代だろう。
「この方は――……」
男の隣にいたもう一人は小袖に肩衣と至って普通の身なりだが、何かを言いかけて男が制した。
「お前、泳げるか?」
「え……」
意表をつく言葉に、竹千代の警戒が緩む。
「どうなんだ?」
「わ、わからぬ。水に入ったことなどないゆえ……」
「なら来い。寺に籠もっていては躯が鈍る」
「でも私は――」
そう言いかけて、竹千代の躯が浮いた。
なんと竹千代は、男の肩に軽々と担がれていたのである。
「こら降ろせ! 無礼者!!」
竹千代の抗議に、男の目が据わる。
「口だけは元気なガキだな?」
「お前だって子供ではないか! 私は賊になるつもりはないっ」
足をバタつかせたが、男は離さない。
そんな騒ぎが聞こえたのか、万松寺住職が駆けつけてきた。
「何事じゃ!? ……っ、の、信長さま!?」
住職の言葉に、竹千代は瞠目する。
最初のコメントを投稿しよう!