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信秀に万一のことがあれば、織田弾正忠家の当主となるのは信長である。
自由奔放で城を抜け出すのは日常茶飯事、この日は万松寺にいる三河側の人質を独断で連れ出したという。
「うつけは本物のようだな?」
上段の間にて、信友は嘲笑った。
報せてきたのは間者として潜り込ませている者からで、信秀ほどの力はないようだ。
「となれば、もはや弾正忠家など恐れるに足りませぬ。あの男は弾正忠家を潰しましょう。我らが手を出さずとも自滅してくれるのですから」
上段の間に向く家臣・坂井大膳が、そんな信友の野心を後押しした。
しかし信友としては、弾正忠家を潰すつもりはなかった。
現在の尾張守護・斯波義統にもう守護としての力はない。大和家が力を握っている現在、斯波氏は傀儡。ゆえに――。
「傀儡とする手もあろう?」
「末森城の信行でございますか?」
大膳が、信友の思惑を代弁した。
尾張を掌握するために、周りは黙らせて置く必要がある。
温厚と知られる信行ならば、大人しく傀儡になってくれるだろう。
信友は三度嘲笑った。
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