第四話 松平竹千代、拐われる

7/9

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
 信秀に万一のことがあれば、織田弾正忠家の当主となるのは信長である。  自由奔放で城を抜け出すのは日常茶飯事、この日は万松寺にいる三河側の人質を独断で連れ出したという。 「うつけは本物のようだな?」  上段の間にて、信友は嘲笑(わら)った。  (しら)せてきたのは間者(かんじや)として潜り込ませている者からで、信秀ほどの力はないようだ。 「となれば、もはや弾正忠家など恐れるに足りませぬ。あの男は弾正忠家を潰しましょう。我らが手を出さずとも自滅してくれるのですから」  上段の間に向く家臣・坂井大膳(さかいだいぜん)が、そんな信友の野心を後押しした。  しかし信友としては、弾正忠家を潰すつもりはなかった。  現在の尾張守護・斯波義統(しばよしむね)にもう守護としての力はない。大和家が力を握っている現在、斯波氏は傀儡(かいらい)。ゆえに――。 「傀儡とする手もあろう?」 「末森城の信行でございますか?」  大膳が、信友の思惑を代弁した。  尾張を掌握するために、周りは黙らせて置く必要がある。  温厚と知られる信行ならば、大人しく傀儡になってくれるだろう。  信友は三度嘲笑った。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加