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「消えるのはそれからでも遅くあるまい? だが、うつけであろうと奴は弾正忠家跡取り、信秀の意思が変わらねば、わしが押す信行は後は継げぬ。信行に傀儡となってもらうにはやはり、目障りよの? 信長は」
◆
長良川――。
長良川は尾張、美濃、伊勢を隔てて流れ、伊勢湾に流れ込む大河である。
松平竹千代にとって、河で泳がされる羽目になるとは予想外で大きなくしゃみが口が出た。何故この私が――と恨めしげに相手を見れば、竹千代を拐ってここに連れてきた信長も褌一枚で焚き火の前にいた。
「食え」
信長が差し出してきたのは、よく肥えて脂がのっていそうな岩魚の串刺しである。
「あなたもいずれは、我が三河の敵となる」
「かも知れないな。だが俺は、父上とは違う。見ての通りの放蕩息子だからな」
いずれ竹千代は元服し、戦場に立つだろう。その時彼が相まみえる敵の将はこの信長かも知れない。
しかし尾張の大うつけと言われ、派手な姿で野を駆けていると男は、妙に竹千代を引き付けるものがある。
もし敵同士に分かれなければ、自分とって大きな存在となるなにかを信長がもっている気がした。
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