第一話 尾張の大うつけ

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第一話 尾張の大うつけ

 天文十六年(てんぶんじゆうろくねんねん)、秋――尾張・那古野城(なごやじよう)。  この日の空は雲ひとつ見つからぬ朗天(ろうてん)で、(うら)らかな日差しが座敷まで飛び込んでいる。  戦国の世とは思えぬ平穏さに、書院で書を開いていた池田恒興(いけだつねおき)は思わずふっと笑う。  池田家は恒興が生まれたときは既に織田弾正忠家(おだだんじようのじようけ)・家臣だったが、彼の父・池田恒利(いけだつねとし)は元々は室町幕府十二代将軍・足利義晴(あしかがよしはる)に仕えていたという。  さらに、恒興の母が織田弾正忠家当主・織田信秀(おだのぶひで)嫡男(ちやくなん)吉法師(きつぽうし)の乳母となった。  その(えん)があってか恒興は、その吉法師の小姓となった。  そもそも那古野城は、駿河(するが)の守護大名・今川氏親(いまがわうじちか)が尾張東部まで支配領域を拡大していた時期に、領有していたという。それを織田信秀が城主となっていた今川氏豊(いまがわうじとよ)を追放して城を奪い、那古野城は織田弾正忠家の城となったとされる。
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