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第五話 老臣・平手政秀、健在なり!
天文十八年二月――、尾張の地にも雪が舞い始めた。
べっとりと湿った霙が確かな氷片に変り、そして不透明な雪になった。さらりとした雪とは違って、現在降っている雪は体にまつわりつくような嫌な雪だった。
それまでは氷を粉末にしたような霜が地を固めていたが、雪天(※雪空)は黙っていられくなったようだ。
「どおりで朝から冷え込む筈じゃ」
書院にいた恒興は、廊に立つ人物に気づけなかった。
織田弾正忠家家老にして、信長の傅役・平手政秀である。
「お見えとは存ぜす、ご無礼を致しました」
恒興は書を閉じると、頭を下げた。
「構わぬ。兵法書か」
政秀は、恒興が呼んでいた書に目を細める。
「はい。いざというときに、信長さまをお守りするために学んでおります」
兵法書として主に知られるのは武経七書と言われる七書で、『孫子』『呉子』『尉繚子』『六韜』『三略』『司馬法』『李衛公問対』だという。
「成長したのう?恒興」
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