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恒興に関心しつつも、政秀の眉間には小さな皺が刻まれている。
「平手さま、美濃との和睦の件、捗っていないのでございますか?」
「いや、その件は解決済みじゃ。大殿も満足されておいでであった。だが、この那古野城内はもちろん、末森城内でも若(※信長)を良しとせぬ者が多い。なにしろ、若がああではの」
政秀は今回の美濃との和睦を成立させ、信長と斎藤道三の娘との婚儀を取り纏めた人物らしい。だが当の信長は、この日も川へ行くと城を空けている。
「信長さまははたして、本当にうつけであらせましょうや」
恒興の問に、政秀が再び目を細める。
「本当は違うと……?」
「わかりませぬが、吉法師(※信長の幼名)さまの御味方でいよとこの私に言われたのは平手さまにございます」
「そうであったのう……」
恒興が信長の小姓となったのは十歳、まだ数年しか仕えていないが、本当の信長は違うように思えた。もしそれが『振り』ならば、そうせざるを得ぬことが信長にあるのだろう。
すると、庭の砂利敷に小物が片膝をついた。
「申し上げます」
「何事じゃ?」
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