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「南蛮菓子でござる。信行さまが殿に兄上に何かを差し上げたいと相談されたのだ。ならば南蛮菓子ではどうかと、堺から取寄させた。聞けば信長どのは、大層な南蛮贔屓。どうやらかの御仁にも、大和家に弓を引く意思はないと見えますな」
「……っ」
明らかな侮辱に、恒興は立ち上がりかけた。
主君を軽んじられて平気でいられなかったのだ。しかしそれを遮る形で、政秀が口を開いた。老洛しているとはいえ、政秀は信秀が信をおく重臣である。戦場に於いても、数々の功績を上げたに違いない。
「坂井大膳どの、と言われたか。確かに織田大和家は尾張下四郡の守護代にして、弾正忠家のご本家。なれど貴殿は臣下の身、口が過ぎよう」
政秀の声は冷静だが、坂井大膳の表情が引き攣った。
「某は、尾張のために申しておる。気に触ったのであれば許されよ」
坂井大膳はそう言ったが、やはり恒興の嫌な予感は当たったようで、彼が帰った後も不快なものがしばらく居続けた。
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