第五話 老臣・平手政秀、健在なり!

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「政秀の(じい)め、そんなことを言ったのか」  夕刻――、帰城した信長は馬屋にて愛馬を撫でながら笑った。 「笑っている場合ではありませぬ!」 「確かに見てみたかったな。奴の顔を」 「平手さまなら、奥書院におられますが?」 「坂井大膳という男の顔さ。爺に睨まれて退散したんだろ?」 「さすがは、平手さまにございました」 「あの父上に仕えて、白髪頭になっても俺を追いかけ回す元気な男だ。間違っていることは間違っていると誰であろうと意見する。そういう男だ、爺は」  平手政秀という人物を、主君・信秀の他に見てきた人物がここにいた。  本人に聞かせてやりたい台詞だったが、信長は聞かせたくないようだ。 「私は平手さまのおっしゃったことは正しいと存じます」  (いま)だ残る余憤(よふん)に、信長が呆れる。 「お前が怒ってどうする?勝三郎。悪口を言われたのは俺なんだろう?」 「だから悔しいんです……!」 「ま、尾張を手中にしたいのは(むし)ろ、織田信友のほうだと俺は思うがな」 「大殿に挑まれたのも、そのためと……?」
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