第五話 老臣・平手政秀、健在なり!

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「あの父上にその意志があったかどうかはわからんが、尾張の混乱を鎮めたいと思っていただろうな。しかし、勘十郎(かんじゆうろう)も成長したもんだな」  勘十郎とは、信長の二歳下の実弟・伸行のことである。恒興がその信行と会ったのは数度だが、信長に素直に甘えてくる少年であった。  しかし信行に弾正忠家の跡取りになるという意思はなくても、彼を担ぐ者は少なくはないだろう。  上段の間に座った信長は、坂井大膳が置いていった黒漆の箱を手に取り蓋を開けた。 「ですがこれで、信長さのまお立場はさらに悪くなりました」 「構わんさ。言いたいやつには言わせておけばいい。かえって(はら)が見えて助かる」 「肚……、ですか?」 「ああ。誰が真の味方か、そうでないか」  やはりな、と思った恒興である。  うつけなのは、振りなのだろう。戦国の下剋上の世ゆえに、疑心暗鬼にさらざるを得ない。ゆえに、大和家が弾正忠家を恐れるのは無理はないと信長は笑う。  だがこのままおとなしく、本家が引き下がるか疑惑だけが恒興の中に残った。  
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