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二人の夫がどれも戦場ではなく、自決や暗殺かもしれぬという死に方である。
問題は三度目となる、これから嫁ぐことなる尾張である。
尾張弾正忠家・嫡男、織田三郎信長――。
この美濃にもうつけと聞こえてくるその男は、帰蝶の一つ年上の十六歳だという。
「――帰蝶さま」
帰蝶が打ち掛けの裾を捌いて踵を返したとき、片膝を付いた者がいる。
忍び装束に前身を包み、女人の目だけが覆面から覗く。
「待ってたわ。楓」
斎藤家の草の者で、楓と帰蝶は姉妹のように仲がよかった。
「私に頼みたいことがあるとのこと」
「ええ。あなたしかできないことよ。父上には内緒でお願いできて?」
帰蝶の依頼に、楓は即答できなかった。
その理由を帰蝶は察していたが、今回だけは大人しく父・道三に従えない帰蝶である。
「なんとなく……、嫌な予感がするのは気の所為でございましょうか?」
楓のその嫌な予感は、まさにこのあと的中することになる。
◆
この日――、那古野城ではある事件が勃発していた。
「信長、これは明らかにお前を狙った犯行だ」
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