第六話 尾張が抱える火種

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 二人の夫がどれも戦場ではなく、自決や暗殺かもしれぬという死に方である。  問題は三度目となる、これから嫁ぐことなる尾張である。  尾張弾正忠家・嫡男、織田三郎信長――。  この美濃にもうつけと聞こえてくるその男は、帰蝶の一つ年上の十六歳だという。 「――帰蝶さま」  帰蝶が打ち掛けの(すそ)(さば)いて(きびす)を返したとき、片膝を付いた者がいる。  忍び装束に前身を包み、女人の目だけが覆面から覗く。 「待ってたわ。(かえで)」  斎藤家の草の者で、楓と帰蝶は姉妹のように仲がよかった。 「私に頼みたいことがあるとのこと」 「ええ。あなたしかできないことよ。父上には内緒でお願いできて?」  帰蝶の依頼に、楓は即答できなかった。  その理由を帰蝶は察していたが、今回だけは大人しく父・道三に従えない帰蝶である。 「なんとなく……、嫌な予感がするのは気の所為でございましょうか?」  楓のその嫌な予感は、まさにこのあと的中することになる。  ◆  この日――、那古野城ではある事件が勃発(ぼつぱつ)していた。 「信長、これは明らかにお前を狙った犯行だ」
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