第六話 尾張が抱える火種

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「若、なりませぬぞ!!」  制する政秀に、信広が笑顔で声を張る。 「止めても無駄だ、平手。こいつはやると言ったらやるぞ。なぁ? 信長」    ◆◆◆  河の中で、水がパシャリと跳ねる。  さすがにこの時期の河は、身も凍る冷たさである。  女は馬を洗っていた。  かなり飛ばして駆けてきたため、馬の脚は泥まみれになった。  女の格好は小袖に袴、髪を高く括っている。いわゆる男装である。  ――やはり、無謀だったかしら。  馬を磨く手を止め、彼女が視界に捉えたのは金華山(きんかざん)であった。  ここは尾張と美濃を隔てる長良川、そして金華山は別名、稲葉山という。  国境(くにざかい)を越える際、見咎(みとが)められるのではないかと恐れていたが、誰にも見られることなく尾張に侵入した。  彼女の目的は、美濃と縁を結ぶことになる織田信長がどんな男か確かめるため。  このことは、道三は何も知らない。  彼女の行動が、美濃と尾張の和睦を破談させることになるかも知れない。しかしそれはそれで、道三のことである。尾張への侵攻を開始するだろう。
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