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だが長良川まで来たのはいいものの、これから先は誰にも見つからぬというわけにはいかない。
「おい、お前」
背後から掛かった声に、彼女の肩が跳ねる。
「え……」
「見かけぬ顔だな? 何処の者だ?」
振り返った先にいたのは、小袖に肩衣という何処かの家臣のようだ。
「……私は楓という旅の者にございます」
そう彼女が名乗ったが、ますます不審がられた。
「旅の者だと……? 男の姿などしおって、怪しいやつめ」
楓は咄嗟に懐に手が伸びた。
そこには、黒漆に蝶の模様が描かれた懐剣が忍ばせてある。
今ここで捕まるわけにはいかない。なんとしても生きて、美濃へ戻らばならない。
不意に、楓の躯が後ろへ強く引っ張られた。
「こいつは、俺の連れだ」
男は楓を抱き寄せるとそう言った。
楓に連れなどはいない。美濃・稲葉山城から一人で馬を駆けさせてきたのだ。
「え……」
楓は男を斜め下から見上げた。
身長は、楓の頭一つ高い。歳は楓と変わらなそうに見える。おそらく十代後半。
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