第六話 尾張が抱える火種

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 長い髪を緋色の組み紐で高く括り、纏っている小袖は膝丈までしかなく、それを片肌脱ぎにしている。美濃にこんな男はいない。 「何者だ? 貴様……」  男の警戒心が、その人物に向く。 「そっちこそ何者だ? 女に刀を突きつけようなんざ、ろくな男じゃあるまい?」 「ぶ、無礼なっ! 某は、尾張下四郡守護代・織田大和家家臣なるぞ!」 「だから?」  守護代家臣に対して、男は嘲笑(わら)った。 「なに……」 「俺はその守護代に殺されかけてな。さっき一言、言ってやったばかりだ」 「(たばか)りを申すな! 我が殿が貴様のようなものをなにゆえ殺さねばならぬ!?」 「帰って聞くんだな」  それまで楽しそうに嘲笑っていた男が、冷たい眼差しを守護代家臣に向ける。  有無を言わさず、圧倒させてしまう眼光――、道三ももつその眼を、この男も備えていた。ただの傾奇者(かぶきもの)ではないことは、明らかである。 「あの――」  守護代家臣が唇を噛んで去った後、楓は男に対して口を開きかけた。 「楓と言ったか。お前、武芸の(たしな)みがあるだろう? 尾張の人間じゃないとすると……」
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