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長い髪を緋色の組み紐で高く括り、纏っている小袖は膝丈までしかなく、それを片肌脱ぎにしている。美濃にこんな男はいない。
「何者だ? 貴様……」
男の警戒心が、その人物に向く。
「そっちこそ何者だ? 女に刀を突きつけようなんざ、ろくな男じゃあるまい?」
「ぶ、無礼なっ! 某は、尾張下四郡守護代・織田大和家家臣なるぞ!」
「だから?」
守護代家臣に対して、男は嘲笑った。
「なに……」
「俺はその守護代に殺されかけてな。さっき一言、言ってやったばかりだ」
「謀りを申すな! 我が殿が貴様のようなものをなにゆえ殺さねばならぬ!?」
「帰って聞くんだな」
それまで楽しそうに嘲笑っていた男が、冷たい眼差しを守護代家臣に向ける。
有無を言わさず、圧倒させてしまう眼光――、道三ももつその眼を、この男も備えていた。ただの傾奇者ではないことは、明らかである。
「あの――」
守護代家臣が唇を噛んで去った後、楓は男に対して口を開きかけた。
「楓と言ったか。お前、武芸の嗜みがあるだろう? 尾張の人間じゃないとすると……」
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