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どうやら男も、楓がただの女とは見ていなかったようだ。
「…………」
「ま、いい。ただ、この尾張は少しばかり物騒でな。懐の懐剣一つじゃ太刀打ちできんぞ?」
「あなたは何者です?」
「尾張・織田弾正忠家、織田三郎信長――」
男の名乗りに、楓は瞠目した。
――この男が……、織田信長。
まさか、ここで会うとは。
楓は信長と別れるまで、言葉を発せられなかった。
一方、その尾張下四郡守護代・織田大和家では――。
「おのれ! あのうつけめっ!!」
守護代にして大和家当主・織田信友は、盃を床に叩きつけた。
信長はいきなりやってきたかと思えば、弾正忠家のことに口を出すなという。主君筋である守護代に向かってにだ。
「殿、なにゆえ信長をきにされまする? あのうつけに、尾張が纏められる筈がございませぬ。聞けば家臣たちも呆れているとか」
信友の前にいたのは、坂井大膳である。
「黙れ、大膳! そなたがあやつを始末し損なうゆえに、この城に乗り込まれたのではないか!? お陰で虎の目を覚ましてしもうた」
「虎の目……?」
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