第七話 波乱を報せる北の風

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第七話 波乱を報せる北の風

 その日――、近江国(おうみのくに)某所(ぼうしよ)にて二人の男が向かい合っていた。 室内は質素で、(かび)の臭いが鼻を突いた。 「――(おろ)かな男よ」  主座(しゆざ)にいた男は、美濃から届いたという一通の書状に目を通し終わると、ため息とともに(つぶや)いた。 「お館様(やかたさま)、書状にはなんと?」 「道三の娘が明日、この尾張に輿入(こしい)れしてくる」 「お館様、これは千載一遇(せんざいいちぐう)の機会かと存じ上げます」  お館様と呼ぶ相手に、男は力なく答えた。 「わしはもう、お館様ではないぞ? (まむし)に噛みつかれ、美濃を追い出された男ぞ」 「いいえ、頼芸さまは美濃の正当な主にございまする」  美濃守護大名・土岐頼芸(ときよりのり)――、彼は天文五年、勅許により美濃守に遷任され正式に守護の座に就いた。  しかし天文十年、重臣の斎藤道三が頼芸の弟・頼満を毒殺する事件が起こり、これ以降は道三との仲が険悪となり、次第に対立することになった。 それから一年後、頼芸は子の頼次ともども道三により尾張国へ追放された。
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