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そして、またも頼芸は追放された。彼が身を寄せたのは妹の嫁ぎ先である、この近江国である。
「如何するつもりじゃ?」
「その愚かな男がなにゆえ我らに報せてきたのか――」
頼芸は、視線を書状に戻した。
美濃と尾張の和睦――、その証しとなる道三の娘の輿入れ。
まるで襲えと言わんばかりの内容に、頼芸は口の端を緩めた。
「自分の手は汚さず策を弄するか……。ふん、こうなると道三も哀れよの。かような者が身近におっては……。だが、わしは戦はもう懲り懲りじゃ。一歩間違えば、尾張の織田も黙ってはいまい?」
「我らも手は汚さず、他の者を使いまする。蝮も人の親、娘可愛さに稲葉山城を出て参りましょう。そこで道三を討つのでございます」
「――この男の狙いもそこにあるようだの」
確かに道三が亡くなれば、頼芸が守護に返り咲けるかも知れぬ。策に綺麗汚いもない。これが、戦国の世なのである。
騙し騙され、力のあるものだけが頂点に駆け上がっていく。
主君だとふんぞり返っていても、いつ誰かが裏切るかわからない。
まさに頼芸が、臣下筋の道三によって美濃から追われたように。
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