第七話 波乱を報せる北の風

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 そして、またも頼芸は追放された。彼が身を寄せたのは妹の嫁ぎ先である、この近江国である。 「如何するつもりじゃ?」 「その愚かな男がなにゆえ我らに報せてきたのか――」  頼芸は、視線を書状に戻した。  美濃と尾張の和睦――、その証しとなる道三の娘の輿入れ。  まるで襲えと言わんばかりの内容に、頼芸は口の端を緩めた。 「自分の手は汚さず策を(ろう)するか……。ふん、こうなると道三も哀れよの。かような者が身近におっては……。だが、わしは戦はもう懲り懲りじゃ。一歩間違えば、尾張の織田も黙ってはいまい?」 「我らも手は汚さず、他の者を使いまする。蝮も人の親、娘可愛さに稲葉山城を出て参りましょう。そこで道三を討つのでございます」 「――この男の狙いもそこにあるようだの」  確かに道三が亡くなれば、頼芸が守護に返り咲けるかも知れぬ。策に綺麗汚いもない。これが、戦国の世なのである。  (だま)し騙され、力のあるものだけが頂点に駆け上がっていく。  主君だとふんぞり返っていても、いつ誰かが裏切るかわからない。  まさに頼芸が、臣下筋の道三によって美濃から追われたように。
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