第七話 波乱を報せる北の風

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 ――道三、そなたもいずれはその首を狙われる。身近な者によってな。 書状の記された送り主の名にふっと笑い、頼芸はそれを(だん)の火に()べた。 「お館様」 「よかろう。ただし、織田、斎藤両名に知られてはならぬ。慎重にことにかかれ」 「はっ」  家臣の男は、深々と低頭した。  ◆  白一色の雪天を、(とび)旋回(せんかい)していた。  凍えるような北風を真っ向に受け、時には(あお)られつつも必死に飛ぶ姿はなんとも勇敢である。  広い空を、誰に(はばか)ることなく飛び回るそんな鳥が、男は時折羨ましく思う。  斉藤新九郎利政――、またの名を道三。  一介の油売りから、下剋上によって美濃の主となった男。その半生は決して綺麗なものばかりではなかったが、彼らはまだなすべき野望がある。 「父上、今回の和睦、承諾致(しようだくいた)しかねまする」  稲葉山城天守から広間に移った道三は上段の間に座った。そんな前に座った人物は、道三に対して激しく抗議をした。 「まだそのようなことを申しておるのか? そなたは」  斎藤義龍(いつきふじよしたつ)――、道三の嫡子である。
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