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――道三、そなたもいずれはその首を狙われる。身近な者によってな。
書状の記された送り主の名にふっと笑い、頼芸はそれを暖の火に焚べた。
「お館様」
「よかろう。ただし、織田、斎藤両名に知られてはならぬ。慎重にことにかかれ」
「はっ」
家臣の男は、深々と低頭した。
◆
白一色の雪天を、鳶が旋回していた。
凍えるような北風を真っ向に受け、時には煽られつつも必死に飛ぶ姿はなんとも勇敢である。
広い空を、誰に憚ることなく飛び回るそんな鳥が、男は時折羨ましく思う。
斉藤新九郎利政――、またの名を道三。
一介の油売りから、下剋上によって美濃の主となった男。その半生は決して綺麗なものばかりではなかったが、彼らはまだなすべき野望がある。
「父上、今回の和睦、承諾致しかねまする」
稲葉山城天守から広間に移った道三は上段の間に座った。そんな前に座った人物は、道三に対して激しく抗議をした。
「まだそのようなことを申しておるのか? そなたは」
斎藤義龍――、道三の嫡子である。
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