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「織田は、この稲葉山城に幾度も攻めてきたのですぞ!」
「もう決めたことだ。そなたが口を挟むことではない。義龍」
道三はそう言って、話を切り上げさせた。
「申し上げます」
その声に視線を上げると、障子の影に身を潜める忍び装束の女がいた。
「楓か、構わぬ。入れ」
楓は一礼すると、敷居の近くで改めて片膝をついた。
「殿――、国境に不穏な動きがみられまする」
「不穏な動き?」
「野盗の類かと思われますが、この時期に現れたのが気になりまする」
これに対し、これ幸いと義龍がまた吠えた。
「父上、やはり思った通りでございませんか!? 織田の罠です。我が美濃を狙っているのです! 父上」
義龍の言葉に、道三が彼を睥睨する。
「義龍。そなた――、いつからこの美濃の主となった?」
「ち、父上……っ」
道三に睨まれて、義龍の顔から血の気が引く。
確かに義龍は道三の嫡子である。だが『我が美濃』と自信たっぷりに言った言動が、道三は気に入らなかった。
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