第七話 波乱を報せる北の風

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 国は決して国主だけのものではない。元油売りの道三だからこそ、それがわかる。彼とて、好んで戦をしているわけでも、主君に(あだ)なしたわけではない。  今や蝮と言われる彼にも、まもりたい物があった。この美濃の地に住む万民のため、国を豊かにするという夢を抱いた。  主君殺しと言われようが、それが彼のやり方である。 「下がれ、義龍」 「…………」  義龍は唇を噛み締め、広間から出ていった。 「楓、帰蝶はどうしておる?」 「お部屋に籠もっておりまする」 「アレが、男であれば――」 「殿……」  帰蝶は女なれど、男勝りの性格をしていた。  乗馬や弓、小太刀の使い方などを教えたのは道三自身だが、男に生まれていれば立派な武将となっていたであろう。 「そなたも大変よのう。帰蝶は普通の女子とは変わっているゆえ。しかも此度は蝮と虎の子が夫婦になる。さぞや、面白いことになるであろうの」  蝮と虎――、そういわれた道三と織田信秀、その子らが夫婦になる。  道三はまだ顔も知らぬ娘婿・信長に、ますます興味を抱くのであった。   ◆◆◆
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