第一話 尾張の大うつけ

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 故に主君筋である織田本家・大和家は、弾正忠家がいつ守護代でもある自分たちを脅かすか戦々恐々らしい。彼らにすれば信長より、温厚な性格と知られる信長の弟・信行が当主になってくれたほうがいいらしい。  信長に守護代を脅かそうという意思があるかは定かではないが、今や尾張守護大名・斯波氏にその力はなく、周りは駿河の今川や甲斐の武田、美濃の斎藤と領土を広げようとする強者に囲まれ、いつ尾張に手を伸ばしてくるかわからない。  結束しなければならないという時期に、内輪揉(うちわも)めしている場合ではないのは恒興でもわかる。 「若は、なにを考えておられるか……」  政秀は、三度嘆息(みたびたんそく)した。  それは恒興も同感で、信長がなにを考えているか本人に聞きたいところだ。 「平手さま……」 「恒興、以前わしが言ったことを覚えておるか?」  そう言われ、恒興は「()」と即答した。  恒興が信長の小姓となって、少し経った頃のことだ。   ――そなただけは、吉法師さまの御味方でいよ。  まだ十歳の子供である恒興に、政秀はそう言った。
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