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尾張・那古野城――、天文十八年二月二十四日、この日はいよいよ信長の婚礼である。
相手は美濃・斎藤道三の娘、帰蝶。道三と織田信秀が交わした和睦の条件として、二人の婚礼となった。だが、無事に済むまでは油断できないのがこの時代である。
和睦と見せかけて、攻めて来られてもおかしくはないのである。
本来ならば主君の婚礼を祝うべきだが、当の本人はもちろん、家臣たちは笑顔ではなかった。
「政秀……、いい加減にしろよ」
上段の間で、素襖に身を包んだ信長は平手政秀を睨んでいた。
さすがにこの日は信長も正装だったが、顔は仏頂面である。
「なんと言われようとこの平手政秀、今日はお側を離れませぬ」
「まさか、厠(※便所)まで付いてくるつもりか?」
「若、今日がどのような日がおわかりか?」
「ああ。蝮の娘が嫁いで来るんだろう? だからと、何故お前が朝から俺に張り付く?」
「放っておけば若のこと、また城を抜け出されます。お諌めすべき者が頼りにならぬゆえ、こうして某めが見張っておりまする」
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