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「な……んですと?」
今日が婚礼であることは、二人も承知している。ゆえに、信盛は言った。
「信長さま自ら、帰蝶さまをお出迎えに向かわなくても――」
「行くつもりはなかったが、賊がその帰蝶を襲おうとしている」
「な……」
同時に言葉を失う二人である。
「猶予はない。急ぐぞ! 勝三郎、信盛、成政!」
「はっ」
馬上の人となった四人は手綱を引き、城門から駆けていった。
◆◆◆
美濃――、稲葉山城を出立したその一行は、尾張を目指していた。周りは険しい峰々が聳えている。美濃北部の大部分は、飛騨山脈をはじめとする山岳地帯で、平地は高山盆地などわずかしかない。
一方南部は伊勢湾沿岸から続く濃尾平野が広がり、低地面積が広い。特に南西部の木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)合流域とその支流域には、水郷地帯が広がっている。
斎藤道三の娘・帰蝶は、輿の上で稲葉山城がある金華山を振り返った。
――父上……。
城を出るこの日、彼女が道三と交わした言葉は三口。
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