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おそらく道三の顔を見るのは、これが最後になるかも知れない。嫁いでしまえば簡単に帰れる立場ではないことは経験上、帰蝶も承知している。
和睦の条件としての婚姻ではあったが、道三は思わぬことを帰蝶に言った。
それが本気だったのか、冗談だったのか測りかねるが。
「お疲れでございましょう、姫」
帰蝶の輿に張り付く形で護衛する稲葉良通が、帰蝶を気遣った。
「いえ……」
「まもなく国境でござる。迎えの者が来ているとの由」
「迎え……ですか?」
帰蝶が不安そうに見えたか、良通が言った。
「ご安心を。万が一のことがあれば、我らがお守り致しまする」
稲葉良通ははじめは美濃守護大名・土岐頼芸に仕えていたがそののちは道三に仕え、美濃三人衆の一人として活躍していた。
他に安藤守就、氏家直元らも随行していたが彼らも良通同様、元は土岐家の家臣で、三人は彼らの居城と領地の地理的位置から、美濃三人衆とも呼ばれている。
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